ノークリサーチが2025年10月に公表した調査では、年商5〜50億円の中小企業で情シスの体制が「兼任」だという割合が、2023年の48.0%から2025年には61.1%に増えました。「専任」は28.7%から16.7%に減っています(ノークリサーチ プレスリリース、2025年5月調査)。兼任とは、総務や人事などの業務のかたわらでIT管理を担う状態のことです。
中小企業のIT資産管理で問題になっているのは、「情シスがいない」ことより「情シスの時間がない」ことなのだと感じます。
兼務やひとり情シスの方にとって、足りないのは知識より時間です。今回は、総務の方がITも見ている想定ケースをひとつ置いて、運用を組み直すと工数がどう変わるのかを追ってみます。台帳をゼロから作る話ではなく、一度作った台帳を兼務のまま回し続けるための話です。
想定ケース:50名の会社で、総務がITも見ている
以下は説明のために置いた想定ケースで、実在の会社ではありません。
従業員50名ほどの専門商社を思い浮かべてください。営業部が30名、総務部と経理が数名ずつ。専任のIT担当はおらず、総務の担当者がIT窓口を兼ねています。ITにかけられる時間は週に3〜4時間ほどです。
資産は、ノートPCが52台、社用のiPhoneが30台。ソフトウェアは Microsoft 365 が50ライセンスと Adobe Acrobat、SaaS は Zoom、Slack、freee会計、kintone など15種類ほどあります。
置き場所はバラバラで、PCはExcelの台帳、Microsoft 365 は管理センター、SaaS は法人カードの明細と各管理画面でした。
IPAの「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」では、情報セキュリティ対策の体制について「兼務だが、担当者が任命されている」中小企業が21.0%でした(「組織的には行っていない(各自の対応)」は69.7%)。これは情報セキュリティ対策の体制についての数字で、IT資産管理の担当者の割合を示したものではありません。それでも、担当者が決まっていても日常の運用まで手が回るとは限らない、という点はIT資産管理も同じです。この想定ケースも、担当者はいるのに回らない状態から始まります。
あなたの会社は、どのくらい近いでしょうか。
Before|「あとでまとめて」が年3日の棚卸しになっていた
このケースで起きていたことを、3つの場面で書いてみます。
1つ目は、秋のある日の請求書です。Zoom の年契約が自動更新され、退職者や使っていない人の5アカウント分まで1年延びていました。更新日が、担当者の頭にもカレンダーにもなかったからです。
2つ目は、年1回の棚卸しです。Excelの台帳を部門ごとに配り、回収し、催促し、元の台帳と突き合わせて延べ3日。それでも最後まで、PCが2台見つかりませんでした。
3つ目は、担当者が1週間休んだときです。営業部の新人に「空いているPCはどれですか」と聞かれても、誰も答えられませんでした。台帳を開ける人はいても、どの行が正しいのか判断できる人がいない。新人のPCの準備は、担当者が戻るまで止まりました。
では、なぜこうなったのでしょうか。担当者が怠けていたわけではありません。
兼務のIT業務は、パスワードやプリンターの不調といった割り込みの連続です。そのなかで台帳の更新だけが、今日やらなくても誰も困らない仕事でした。締め切りのない仕事は、兼務では必ず後回しになります。積もった分は、年1回の棚卸しでまとめて返ってくる。延べ3日の正体は、1年分の「あとでまとめて」だったのだと思います。
だとすると、手を打つ場所ははっきりしています。締め切りのない仕事に、どう締め切りを与えるかです。
取った対策は4つ
組み直したのは次の4つで、どれも大がかりなものではありません。
台帳の更新を、請求書と入社連絡にくっつける
総務でITも見ている担当者には強みがあります。資産が動くきっかけの書類が、ほとんど自分の手元を通ることです。PCを買えば請求書が、人が入れば入社連絡が来る。SaaS の契約更新も、案内メールか請求書で届きます。
そこで、台帳の更新を独立した作業にするのをやめました。請求書を処理したら、そのまま台帳に1行足す。入社連絡を受けたら、その日のうちに貸与するPCの持ち主を書き換える。すでにある作業の最後に5分だけくっつけることで、更新に「請求書の処理」という締め切りが付きます。出来事が起きたその場で更新するという考え方は「IT資産管理を始める前に決めておく5つのこと」で、入社と退職の具体的な手順は「入社・退職でIT資産台帳を崩さない」で整理しています。
期限は覚えない
SaaS は15種類ほどですが、期限があるのは SaaS だけではありません。PCの保証やリース、Microsoft 365 や Adobe Acrobat のサブスクリプション、ソフトウェアの保守も加わります。購入のまとまりや契約の単位で数えると、期限管理の対象はこのケースだけで30件近くありました。記憶やカレンダーへの手入力で追うのは、兼務では無理があります。
なので、期限は通知に任せました。目安は30日前・7日前・当日の3回です。30日前は続けるかやめるかを決め、7日前に解約や発注の手続きを終え、当日に最後の確認をする。1回だけの通知は、その日が忙しければ見落とします。
ただし、通知が届くことと手続きが終わることは別です。通知は気づくためのきっかけで、判断と手続きは人が行います。そこで、通知を受けたら台帳に「継続」「解約」「手続き済み」を書き込むところまでを1セットにしました。通知の宛先も、後で決める管理者2人の両方にしています。どちらかが休んでいても、期限は止まらないからです。
月に一度、20分だけ点検する
日は月初の請求書処理の日に合わせました。新しい習慣を増やすより、すでにある作業の隣に置いたほうが続くからです。
見るのは3つだけです。
- 管理者が決まっていない資産
- 誰にも割り当てていないライセンスや SaaS のアカウント
- 期限が近いもの
全件の見直しではなく、ずれ始めていないかを確かめる時間です。20分で終わらない分は棚卸しに回します。
任せる範囲を決めて、管理者を2人にする
休んだときに止まった原因は、総務の担当者がすべてを抱えていたことでした。
そこで関わる人を3つに分けました。現場の社員には、棚卸しで「このPCは手元にありますか」と聞かれたら答えることだけをお願いする。部門の担当者は台帳を見て、おかしければ知らせる。台帳を直す管理者は、総務の担当者と総務課長の2人です。
管理者が2人いれば、片方が休んでも新人のPCは用意できます。2人目は同じ量を担わなくても、必要なときに台帳を開いて判断できれば十分だと思います。
棚卸しも、年1回・延べ3日から年2回・各半日に変えました。回答は現場に任せ、担当者は進み具合を見るだけ。普段の更新が回っていれば、半年分の差分は小さく済みます。進め方は「IT資産の棚卸しを半日で終わらせる手順」に書いています。
After|年間の工数はどう変わったか
組み直す前と後の工数を並べます。数字はすべてこの50名規模の想定ケースでの試算で、統計でも実測値でもありません。運用の違いで工数がどう変わるかを比べるための目安です。
試算の条件は次のとおりです。工数は担当者1人が作業した時間で数えています。Before は、月末にまとめて行う更新、持ち主の調べもの、期限切れに気づいてからの対応、年1回の棚卸しを積み上げました。After は、日常の更新を1件5分・月8件、月次点検を20分、棚卸しを年2回・各4時間としています。期限の突発対応と調べものが減る分は、通知と台帳で前もって判断できるようになることを見込んだ想定値です。
| 作業 | Before | After |
|---|---|---|
| 日々の台帳更新 | 月末にまとめて思い出す。月1.5時間(年18時間) | 発生のつど1件5分、月8件ほど(年8時間) |
| 「このPCは誰の?」の調べもの | 月1時間(年12時間) | 台帳を見れば済む。月10分(年2時間) |
| 期限の突発対応 | 年4回ほど、各2時間(年8時間) | 通知を見て前もって判断(年2時間) |
| 月次の点検 | なし | 月20分(年4時間) |
| 棚卸し | 年1回、延べ3日(24時間) | 年2回、各半日4時間(8時間) |
| 合計 | 年62時間(月5時間強) | 年24時間(月2時間) |
合計では、年62時間が24時間になり、6割ほど減っています。
ただ、兼務の方にとって大事なのは総量より中身だと私は考えています。Before の62時間は、突然の更新漏れ、突然の「このPC誰の?」、年に一度の3日間の追い込みと、ほとんどが予定外の時間でした。After の24時間は、請求書処理の5分、月初の20分、年2回の半日と、いつ使うかが前もって決まっています。ITに週3〜4時間しか使えない人にとって、予定が立つ価値は大きいはずです。
もちろん、会社によって数字は変わります。工数が増えやすいのは、次のような条件です。
- 拠点が複数に分かれていて、現物の確認に移動が必要
- 入退社や異動、PCの入れ替えが多く、資産の出入りが頻繁
- スマートフォンや周辺機器まで、管理対象の範囲が広い
- 棚卸しへの回答率が低く、催促や個別の確認に時間がかかる
自社の工数を見積もるときは、表の各行にこの条件を当てはめてみてください。
ケースから見える「専任がいなくても回す」原則
想定ケースから一歩引いてみます。兼務でIT資産管理を回す方法は、大きく3つあります。
| 回し方 | 向いている会社 | 弱いところ |
|---|---|---|
| ひとりで抱える | 資産が20〜30件ほどで、ほとんど動かない | 担当者が休む・辞めると止まる |
| 外部に委託する | 予算があり、社内に時間を出せる人がいない | 社内からの情報共有が欠かせず、委託範囲によっては別途の調整が発生する |
| 仕組みと分担で回す | 50〜100名前後で、総務などに窓口がある | 最初に分担と手順を決める手間がかかる |
委託は悪い選択ではありません。ただ、資産が動くきっかけは社内で起きるので、情報を渡す役は社内に残る、という点は変わりません。正直なところ、どれが正解かは会社によります。そのうえで、社内に窓口がある会社なら、3つ目がいちばん無理なく続く形だと思います。
その3つ目を支える原則は、次の3つです。
1つ目は、やらないことを先に決めること。マウスやケーブルのような少額の周辺機器や消耗品は兼務のうちは追わず、項目も「あったら便利」では増やさない。範囲を広げるほど、兼務の時間はそこに吸われます。範囲の決め方は、先に紹介した「始める前に決めておく5つのこと」でも触れています。
2つ目は、締め切りのない仕事を作らないこと。更新は発生源の作業にくっつけ、点検の日は固定する。いつやるか決めていない作業は、兼務では残りません。
3つ目は、休んだら止まる場所をなくすこと。管理者を2人にし、手順はA4一枚のメモにして、誰がいつ何を直したかをたどれる場所に台帳を置く。エンジニアとして20年以上業務システムを見てきましたが、担当者ひとりの頑張りを前提にした仕組みは、たいてい担当者の異動と一緒に止まります。
限界もあります。インストールされているソフトやパッチの状況まで自動で把握したい規模や要件になったら、エージェント型の資産管理ツールやMDMが担う領域です。今回の回し方がよく合うのは、数十名から100名前後までです。
ここまでの原則は、Excelの台帳のままでも使えます。専用ツールに移るかどうかは「IT資産管理ツールはExcel・専用ツールどちらにすべき?」の基準で判断してみてください。
Assetiveで兼務の手間を減らせるところ
私たちが運営しているIT資産管理SaaS「Assetive」で、対策のどこが軽くなるのかも書いておきます。
月20分の点検は、ダッシュボードを開けば始められます。資産の件数に加えて、管理者がいない資産と、割り当てのないライセンスや SaaS の件数もひと目で分かる構成です。期限切れ・期限間近の一覧と年間の更新カレンダーも同じ画面なので、「見るのは3つだけ」が1画面で済みます。

期限の通知は、デバイスのリース・保守・保証、ライセンスのサブスクリプション・保守、SaaS の契約の6種類で設定できます。初期設定は30日前・7日前・当日の3回で、タイミングの変更も可能です。通知先は、管理者ロールのユーザーだけにするか、資産の管理者にも送るかを選べます。3段階を標準にしたのは、期限切れは気づいたときにはもう遅い、と考えているからです。

任せる範囲は、ロールで切り分けます。資産管理・棚卸し・社員管理といった画面ごとに「なし/閲覧のみ/編集」を決められ、自社用のロールも作れます。部門の担当者には資産管理を閲覧のみ、という使い方です。現場の社員には、ログインや操作を覚えてもらう必要がありません。社員として登録しておけば、棚卸しの回答依頼がメールで届き、メールのリンクから回答できます。

棚卸しの回答と催促はメールで完結するので、担当者は進み具合を見るだけで済みます。
まとめ|頑張らなくても崩れない形に
- 台帳の更新は、請求書や入社連絡など手元を通る作業にくっつける
- 期限は覚えず、30日前・7日前・当日の通知に任せる
- 月に一度、20分だけ「管理者なし・未割当・期限間近」を見る
- 現場には回答だけを任せ、管理者は2人、棚卸しは年2回の半日に
専任の情シスがいないこと自体は、IT資産管理ができない理由にはなりません。足りないのは時間で、それなら予定外の時間を減らす設計にすればいい。この想定ケースで伝えたかったのはそのことです。IT資産管理の目的から整理し直したい方は「IT資産管理とは? 定義・目的・固定資産管理との違い」もあわせてご覧ください。
来月の請求書処理の日に、まずは20分だけ取ってみませんか。点検と期限の通知をひとつの画面にまとめたい方は、Assetive も選択肢のひとつに入れてもらえればうれしいです。
兼務のままでも、台帳は回せる
30日前・7日前・当日の期限通知 / 30日間無料 / クレジットカード登録不要
