SaaS管理のコツ|増えすぎたSaaSを「見える化」してムダとリスクを減らす方法

資産の種類別に管理のコツを見ていくシリーズも、今回が3本目です。1本目はPC・端末、つまり机の上にある「動くモノ」の管理。2本目はソフトウェアライセンス、契約として持つ「見えない数」の管理を扱いました。最後の今回は、SaaSです。

SaaSが前の2つと決定的に違うのは、情シスが契約していないものまで、現場が自由に増やせてしまう点だと思います。PCは情シスが買って配り、ライセンスも多くは情シスが契約します。ところがSaaSは、現場の担当者がクレジットカード1枚、あるいは無料プランのまま、いつのまにか使い始められる。気づいたら全社で何十個ものSaaSが動いていて、誰が・何を・いくらで使っているのか情シスからは見えない。今回は、この「見えない」状態をどう「見える化」し、そこからどうムダとリスクを減らすか、という流れで整理してみたいと思います。

なぜSaaSは「見えなくなる」のか

いったい、なぜSaaSはこんなに見えなくなるのでしょうか。理由は、契約のハードルがとにかく低いことに尽きると思います。PCを1台買うにはたいてい稟議が要ります。ライセンスをまとめて契約するときも、情シスや購買が間に入ることが多い。ところがSaaSは、現場の担当者がブラウザでサインアップしてクレジットカードを登録すれば、その日から使い始められます。月額1,000円前後のツールなら、稟議すら通さず経費で落とせてしまう。情シスが関与しないまま契約が成立する余地が、構造的に大きいのですね。

しかも、無料プランから静かに始まるパターンも多いと感じます。数人が無料で試していたツールが、便利だからと使う人が増え、制限に当たったところで誰かが有料プランへ切り替える。この移行は現場の中で完結するので、情シスはたいてい後から知ることになります。さらに、部署ごとにバラバラに増えるのも特徴です。チャットはA部門がSlack、B部門がChatwork、タスク管理は営業と開発で別のもの、という具合に、同じ用途のツールが社内に複数並ぶ。こうして情シスの管理外で使われるツールは、シャドーIT(情シスが把握していないIT利用)と呼ばれます。言葉は不正利用のように響きますが、実際は悪意なく、ただ便利だから増えていった、というケースがほとんどではないでしょうか。

問題は、悪意がなくても、見えないこと自体がいくつもの困りごとを生む点です。次は、その困りごとを見ていきます。

見えないSaaSが招く3つの困りごと

見えないSaaSをそのままにしておくと、どんな困りごとが起きるのか。大きく3つに整理できると思います。

1つ目は、コストのムダです。使われていないアカウントに、毎月お金が出ていきます。退職者のアカウントを止め忘れて課金が続く、無料プランで足りるのに惰性で有料プランを払い続ける、といった具合です。さらにやっかいなのが重複契約で、チャットツールが部署ごとに2つ、3つと並んでいると、本来1つにまとめれば済む費用を二重三重に払うことになります。SaaSはひとつあたりが小さい金額なので、1件ずつは気づきにくいのですが、積み重なると無視できない額になります。

2つ目は、セキュリティと退職リスクです。SaaSはインターネット越しに、社外からでもアクセスできます。ここがPCやオンプレミスのソフトと大きく違う点ですね。退職した人のアカウントが残っていると、その人は自宅からでも社内の情報にアクセスできてしまう。悪意のあるなしにかかわらず、これは大きな穴です。IPA(情報処理推進機構)が毎年公表している「情報セキュリティ10大脅威」でも、内部不正による情報漏えいは組織向けの上位に常連で入っています。止め忘れたアカウントは、その入り口になりかねません。

3つ目は、そもそも管理ができないことです。何のSaaSがあるのか分からなければ、更新時期も追えませんし、棚卸しのしようもありません。「いくら払っているか把握できない」「監査で『使っているSaaSを全部出して』と言われて答えられない」のは、見えていないことの当然の帰結です。

こうして並べると、3つの困りごとはどれも「見えていないこと」から出発しているのが分かります。だからこそ、まず最初の一歩は見える化なのですね。ここから、見える化して減らすまでのコツを順番に見ていきます。

コツ① まず「棚卸し」で現状のSaaSを洗い出す

最初のコツは、棚卸しです。減らすにも止めるにも、まず「いま社内でどんなSaaSが使われているのか」を一覧にしないと始まりません。

洗い出しの基本は、「何を・誰が・いくらで」契約しているかを1件ずつ並べることです。情報の出どころは大きく2つあると思います。1つは、経理が持つ請求明細やクレジットカードの利用明細。SaaSの多くは月額や年額で課金されるので、明細をたどると「毎月この会社に支払いがある」という形で契約の存在が浮かび上がります。もう1つは、現場へのヒアリングです。明細だけでは「何のためのツールか」「誰が使っているか」までは分からないので、各部署に「業務で使っているクラウドサービスを挙げてください」と聞いて回る。この2つを突き合わせるのが、現状把握のいちばん確実な方法だと感じます。

想定ケースで考えてみます。50名規模のBtoB SaaS企業で、マーケ部門がNotionとHubSpot、営業がSalesforce、デザインチームがFigma、開発がGitHubとSlackを使っていて、情シスはそのうち半分ほどしか把握していなかった、とします。請求明細を洗い出すと、把握外のツールも含め全社で20を超えるSaaSが動いていて、月の合計が想定よりだいぶ大きかった——こうした話は、ユーザーインタビューでも近いケースを何度か伺います。最初の一覧化は、この「思っていたより多い」を可視化する作業でもあるのですね。

この最初の一覧が、すべての出発点です。一覧がないと、次の「誰が使っているか」も「減らせるか」も検討のしようがありません。完璧でなくていいので、分かる範囲で全部書き出してみることをおすすめします。

コツ② アカウント単位で「誰が使っているか」を把握する

一覧ができたら、次は一段細かく、それぞれのSaaSを「アカウント単位」で見ます。ここで効いてくるのが、契約しているアカウント数と、実際に使っているアカウント数のズレです。

SaaSの多くは、ユーザー数(アカウント数)に応じて課金されます。10アカウント契約していても、実際にログインして使うのが6人なら、4アカウント分は使われないまま払い続けていることになります。このズレは、ライセンス管理で扱った「契約数と利用数のズレ」とまったく同じ構図です。形のない契約は、契約の数と使う数という2つの数字がいつもセットで存在し、放っておくとどんどん離れていくのですね。

ズレが生まれる典型が、退職や異動です。10人で使っていたツールから2人が抜けても、契約は10のまま、アカウントも残ったまま、ということが起こります。だからこそ、SaaSごとに「契約アカウント数」と「いま誰が使っているか」を並べて持ち、使っていないアカウントを見つけられる状態にしておくことが大事だと思います。

ちなみに、この「誰に割り当てているか」を追う仕組み自体は、前回のソフトウェアライセンス管理とほぼ同じ考え方です。割り当ての具体的な回し方はライセンス管理の記事で扱っているので、ここでは深入りせず、SaaSならではの「減らす」「止める」へ進みます。

コツ③ 使われていないSaaS・アカウントを「減らす」

見える化の本当の目的は、見えるようにすること自体ではなく、ムダを減らすことです。棚卸しでSaaSの一覧ができ、アカウント単位で使われ方が見えてきたら、いよいよ削っていきます。減らす対象は、大きく以下の3つです。

  • 使われていないアカウント:契約しているのにログインされていないアカウント。退職者のぶんや、試しに作ったまま放置されたものなど。これは契約数を実態に合わせて減らせます
  • 使われていないSaaSそのもの:導入したものの定着せず、ほとんど誰も開いていないツール。解約の第一候補です
  • 重複しているツール:同じ用途のSaaSが部署ごとに並んでいるケース。統合できれば、契約をひとつにまとめられます

このなかで、わかりやすく効くのが重複ツールの統合です。チャットがSlackとChatworkで二重になっていたら、どちらかに寄せることで片方の費用がまるごと消えます。月数万円のツールでも、年間では数十万円規模になりますから、削減のインパクトは小さくありません。

もちろん、減らすときは慎重さも要ります。「使われていない」と見えたアカウントが、実は四半期に一度だけ使う重要な業務のものだった、ということもあります。いきなり止めず、使っていそうな部署に一声かけてから整理するのが安全だと思います。このあたりは棚卸しのヒアリングと同じで、現場との対話が欠かせない部分ですね。

コツ④ 退職・異動時にアカウントを確実に止める

最後のコツは、人が抜けたときに、その人のアカウントを確実に止めることです。コツ②③が「コストのムダ」に効く話だとすれば、これは「セキュリティと退職リスク」に直接効く話になります。繰り返しになりますが、SaaSは社外からアクセスできます。だからこそ、退職者のアカウントを止め忘れるリスクは、PCの回収忘れよりも深刻だと感じます。PCは手元になければ使えませんが、SaaSのアカウントが生きていれば、退職した人が自宅のPCから、これまで通りログインできてしまうのです。

ここでも、退職時の整理の進め方自体は前回のライセンス管理と共通です。退職処理と「その人が使っていたアカウントの停止・引き継ぎ」を別々の作業にせず、一つの流れにまとめておく。これが鉄則です。退職手続きはしたのにSaaSのアカウントだけ止め忘れる、という事故は、2つの作業が分かれているから起きます。詳しい回し方はライセンス管理の記事に譲りますが、SaaSは「社外からアクセスできる」ぶん、止め忘れの一件一件がより重い、ということだけ強調しておきたいと思います。

確実に止めるための出発点も、やはりコツ①の一覧です。「この人がどのSaaSを使っていたか」が一覧から引けなければ、止めようがありません。見える化が、最後のリスク管理まで効いてくるわけですね。

Assetiveでできること(SaaS管理)

ここまで、見えないSaaSを棚卸しで洗い出し、アカウント単位で把握し、減らし、退職時に止める、という流れを見てきました。「考え方は分かったけれど、20も30もあるSaaSをExcelで追い続けるのは大変そう」と感じた方もいるかもしれません。そこで、私たちが運営しているIT資産管理SaaS「Assetive」では、これをどう支えられるのかを見ていきます。

なお、SaaSの割り当て、更新期限のアラート通知、退職時の割り当て解除は、前回のソフトウェアライセンス管理とまったく同じ仕組みで動きます。重複するので本記事では繰り返しません。詳しい挙動は別記事のソフトウェアライセンス管理で扱っています。ここでは、SaaSならではの見せ方に絞ります。

SaaS台帳の入力項目

SaaS1件ごとに、サービス名・プラン名・契約番号・契約会社・URLを登録できます。URLは http(s) のみ受け付ける形で、ログインページや管理画面にすぐ飛べます。これに加えて、契約アカウント数・社員への割り当て・契約金額(月額や年額相当)・契約開始日・契約終了日・管理部門・管理者まで、1つのレコードに収められます。棚卸しで洗い出した「何を・誰が・いくらで」を、そのままこの1件に書き写していくイメージですね。組織固有の項目があれば、カスタムフィールドで追加もできます。

AssetiveのSaaS詳細画面。契約金額・契約開始日・契約終了日・管理部門・管理者等の閲覧編集の他、契約アカウント数・社員への割り当てが可能。

コスト・利用状況の可視化

SaaS管理でいちばん見たいのは、やはり「契約しているアカウント数」と「実際に使っているアカウント数」のズレだと思います。Assetiveでは、契約アカウント数は手動で入力し、使用アカウント数は社員への割り当て実績から自動で集計します。10契約に対して割り当てが6なら、その差の4が「使われていない可能性のあるアカウント」として見える、という具合です。割り当ては契約アカウント数を超えてはできないので、知らないうちに契約を超過することも防げます。

そして全体像は、ダッシュボードのKPIカードにSaaS総数として出ます。社内にSaaSがいくつあるのかという数そのものが、まずひと目で分かる。コツ①の棚卸しで「思っていたより多い」と気づいた数を、登録後はこの1画面で追える状態にしておけます。

Assetiveのダッシュボード(使用状況)、ライセンスやSaaSの使用状況がグラフで確認可能。

コストの面でも、ダッシュボードから全体を見渡せます。登録した各SaaSの契約金額をもとに、月額・年額のコストが把握できるほか、月次のコスト推移を時列のグラフで追えます。ここはSaaSだけでなく、デバイスの契約やサブスクリプション型ライセンスのランニングコストも並べて表示されるので、「毎月いくら出ていっているのか」を3種類まとめて確認できます。あわせて部門別のコスト分布も見られるので、どの部署にコストが偏っているのかも分かります。先ほどの「使われていない可能性のあるアカウント」とこのコスト面を合わせて眺めると、どこにムダが潜んでいそうかが見えてきます。コツ③で触れた「減らす」判断は、こうして数字で根拠を持てると進めやすいと思います。

 

Assetiveのダッシュボード(ランニング高巣と)、ライセンスやSaaSのコストがグラフで確認可能。

このように、デバイス・ライセンス・SaaSを同じ画面の流儀で一元管理できるようにしているのは、「ツールを行き来する手間が、管理のモチベーション低下に直結する」という現場感覚からです。SaaSだけ別の管理表に切り出すと、結局そこだけ更新が止まり、また見えなくなっていく。3種類をひとつの台帳にまとめておきたかった、というのが設計の出発点でした。

まとめ

増えすぎたSaaSを見える化し、ムダとリスクを減らすコツを見てきました。まず棚卸しで現状のSaaSを洗い出し、アカウント単位で誰が使っているかを把握し、使われていないものや重複しているものを減らし、退職・異動のときには確実に止める。SaaSは現場が自由に増やせるぶん見えなくなりやすいですが、「見える化 → 減らす → 止める」という順番で向き合えば、コストもセキュリティのリスクも、着実に抑えられると思います。

そして、この3本でPC・ライセンス・SaaSという3種類の資産をひと通り見てきました。ハードウェアの「ある/ない」、ライセンスの「契約と利用の数」、SaaSの「見えない契約の見える化」。性質はそれぞれ違いますが、この3種類がそろって台帳に載って、はじめて自社のIT資産の全体像が見えてきます。逆に言えば、どれか1つが抜けていると、そこが見えない穴になる。3つを並べて初めて、資産管理が「点」から「面」になるのだと感じます。資産管理全体の位置づけをあらためて確認したい方は、IT資産管理とは|基礎知識もあわせてご覧ください。

なお、SaaSの数が20、30と増えると、Excelの台帳では契約と利用のズレや支払いの全体像を追い切れなくなってきます。そう感じはじめたら、IT資産管理はExcel・専用ツールどちらにすべき?の判断軸もあわせて見てみてください。「契約しているけれど、本当に全部使われているんだっけ?」とふと不安になった方には、契約と利用を1か所で並べて見られる仕組みが、選択肢のひとつになるかもしれません。

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